「エスキスが苦手」「アイデアがまとまらない」「時間ばかりかかってしまう」…建築を学ぶ学生なら、誰もが経験する悩みではないでしょうか。
エスキスは感覚的な要素が強く、指導者から「とにかく数をこなせ」「場数を踏め」と言われることも多いでしょう。しかし、闇雲に数をこなすだけでは、非効率な上に、成長を実感しにくいものです。
本稿では、エスキス習得のために本当に大切な「基礎力」=「型」を効率的に身につけるトレーニング方法をご紹介します。
Contents
エスキス習得の壁:感覚的な指導と非効率な努力
エスキス指導で陥りがちなのが、「感覚的な指導」と「非効率な努力の繰り返し」です。
教員からのアドバイスは、「この部屋はこっちの方が良い」「この動線はスムーズではない」といった、具体的ながらも断片的になりがちです。学生としては、その場しのぎの修正はできても、
- 何故その指摘になるのか?
- どうすれば自分自身で修正点に気づけるのか?
- 最初から、より良いプランを思い浮かぶにはどうすれば良いのか?
といった、根本的な疑問に対する解決策を見出せません。
結果として、試行錯誤を繰り返すうちに時間切れになり、本来目指していた設計とはかけ離れた、不本意な作品で妥協してしまう…そんな経験をした方もいるのではないでしょうか?
将棋に見る、感覚的なスキル習得の秘訣
将棋の世界では、膨大な選択肢の中から最善手を導き出すために、
- 定石(基礎知識): 初期の段階での基本的な指し手の型
- 詰将棋(論理的思考力): 局所的な戦局における最善手を導き出す訓練
- 棋譜並べ(直感力): プロの対局を鑑賞・分析することで、大局的な判断力を養う
という3つのトレーニングが重要視されています。
建築におけるエスキスも同様です。
- 図面のルール(基礎知識): 図面の描き方、各要素の関係性などの基本ルール
- 部分的な納まりの訓練(論理的思考力): 階段、エレベーター、トイレなど、特定の機能を満たす空間構成の練習
- 優れた図面の模写・トレス(直感力): 優れた設計事例を繰り返しトレースすることで、優れた空間構成の「型」を無意識レベルで習得する
多くの場合、1と2は意識的にトレーニングされますが、3は軽視されがちです。
エスキス上達のカギは「図面模写」にあり
「図面模写」は、一見すると非効率で、オリジナリティを損なうように思えるかもしれません。しかし、将棋における棋譜並べと同様に、優れた設計の「型」を効率的に吸収できる、非常に効果的なトレーニング方法なのです。
効果的な図面模写のポイント
- 模写する図面: シンプルで、建築的に破綻のない、模範的な図面を選びましょう。一級・二級建築士の製図試験の模範解答などは最適です。
- 模写の方法: 薄い紙を上に重ねてなぞる「トレス」ではなく、あくまで目で見て、別の紙に書き写す「模写」を推奨します。
- 使用する道具: 鉛筆(シャーペン)、図面、A4サイズの方眼紙があれば十分です。
図面模写の効果
- 「良い設計」の感覚的な理解: 優れた設計を繰り返し模写することで、自然と「良い設計」の感覚が身につきます。
- 設計スピードの向上: 頭の中に「型」が蓄積されることで、エスキスの初期段階で、スムーズにプランニングを進められるようになります。
- 設計の破綻を防ぐ: 無意識レベルで「良い設計」を判断できるようになるため、設計の致命的なミスを防ぎやすくなります。
まとめ:センスだけに頼らないエスキス習得を
建築エスキスは、感覚だけに頼るのではなく、「型」を習得することで、より効率的に上達することができます。
まずは、基本的な図面のルールを理解し、部分的な空間構成の訓練を積み重ねましょう。そして、並行して「図面模写」に取り組むことで、優れた設計の「型」を吸収し、あなたのエスキスは飛躍的に向上するはずです。